平成26年8月 文教産業委員会視察調査報告
兵庫県朝来市経済成長戦略について
報告者:岩垣和彦・中田清介

1.視察期間 平成2684日(月)

2.視 察 先  兵庫県朝来市

3.視察項目 経済成長戦略について

4.視察目的
 日本の社会が抱える大きな課題は、今後急速に進展する人口減少や少子高齢化社会への対応と、経済のグローバル化に伴う景気変動や雇用環境等の厳しさが、市民生活、企業経営、自治体経営に大きな影響を与えていることから、その対応策や準備を迫られていることである。

特に地方自治体にとっては人口減少化社会への対応の中で、地域は何で稼ぎどう雇用を維持していくのかが大きな課題となっている。高山市にとっても人口減少や景況感の悪化等が引き起こす事象は、自治体経営の更なる悪化を誘発する可能性があるため、本市が抱える経済の課題を詳細に分析し、強みと弱みを見極めながら、持続可能な経済循環構造を構築し雇用の安定を図ることが必要である。

 当委員会は、これまで高山市の経済指標や現状を調査してきた。その中で、観光消費額の増減が市内経済に与える影響は大きく、観光消費額の約2倍にあたる額が波及効果として市の経済を潤している現状を確認したところである。

その為、基幹産業としての観光の重要性並びに観光消費額の増加策、観光を軸にした6次産業化の推進、観光による地域づくり、関連産業における若者雇用の確保などをこれまで提言してきた。
 そこで次年度から始まる高山市第八次総合計画において、産業経済政策分野においてデータ分析による考察を加え、より具体的な成長戦略として位置づけられるよう充実させる為、朝来市の経済成長戦略を参考に、地域経済循環と産業連関に基づく本市の経済戦略の
策定と良好な経済循環の創出が可能となることを目的として、今回視察地として選定した。

5.視察内容
ア.概  要
(1)朝来市経済成長戦略策定の経緯
全国的 リーマンショック、円高、東日本大震災などにより国内経済が超低迷
朝来市  優良企業の撤退がおこり、大きな雇用を失った。このため対策を講じようとするが、商工観光課内では観光部門のイベント等に人手が奪われ、商工労政部門に人手が廻せない状況となっていた。そこで、平成23年度に旧商工観光課を、商工労政部門と観光部門に分け、経済振興課を新設した。しかし、戦略を伴わない場当たり的な経済施策や朝来市の経済・産業の現状を把握できていない状況にあった。
 そこで、計画的に経済振興策を進める必要性を認識し「朝来市経済成長戦略を策定」することとした。(岡山大学大学院 社会文化科学科・経済学部 中村良平氏の指導を仰ぐ)
(2)市内経済と産業分析

 経済戦略策定のためには産業の現状把握と分析の必要がある。その為各種統計指標や産業連関表を用いて現状把握と経済構造を把握し、まず「朝来市経済白書」をまず作成した。
 その後、経済成長戦略を策定し、産業連関表詳細分析により地域経済の「構造改革シミュレーション」を実施した。成長戦略の重点戦略の一番目に「観光インパクトを活かした独自産業の創出」を掲げたが、観光客30.6万人増加による経済効果の試算や、域内循環を高める産業構造への転換による地域経済構造改革の効果倍率の算定を行うとともに、「エコノミックガーデニングの推進」、「農産物のブランド化」の3つの重点戦略の立案に進んだ。

産業連関表とは

地域内で1年間の産業間取引と消費者間取引を示した表で、作成方法は、国・県の統計を基に市内企業へアンケート調査を実施しダウンサイジングする。しかし、国や県の統計資料等の公表に時間を要することから、必然的に自治体が作成する産業連関表は、最新データとは若干異なっているなど課題もある。

産業連関表から導き出される朝来市の経済構造 
 朝来市の
GDPH21)は1,935億円で、市内生産のために使用された原材料等の中間投入額は901億円(GDP46%)となり、市内で調達できない原材料等は市外から輸入等で賄われている。消費や投資に回される製品等の輸入を含めると、朝来市の輸入総額は、1,169億円となり、県内輸入426億円(36%)、県外輸入743億円(64%)となる。

 また、生産活動の成果となる粗付加価値額は、1,033億円(GDP53%)で、その分配は雇用者所得が570億円、営業余剰193億円、その他(減価償却や間接税等)が269億円となっている。一方、市内における需要額2,023億円で、この内、原材料等に使用された中間需要額901億円(市内需要額の45%)、最終製品として消費や投資に使用された最終需要額1,121億円(市内需要額の55%)となる。最終需要額の81%にあたる906億円が消費(家計外消費支出、民間消費支出等の合計)で、残りの19%にあたる214億円が投資(市内総固定資本、在庫純増の合計)となっている。 

来市で生産された財・サービスに対する市外への需要は移輸出で、総額1,081億円となり、内訳は県内輸出(移出)が341億円(32%)、県外輸出(移出)が739億円68%)となっている。
◆朝来市経済の投入・産出バランス(H21)
・総供給=総需要=3,104億円
・中間投入=中間需要=901億円
・市内生産額=総供給−移輸入=1,935億円
・粗付加価値=市内生産額ー中間投入=1,034億円
・最終需要=総需要ー中間需要=2,203億円
・移輸出1,81億円<移輸入1,169億円⇒域際収支は移輸入超過で880億円の赤字

産業連関表の解説
 この図は、全体フローの各取引関係を表わしたもので、下記の図を基に前項の全体フロー図を作成している。

 供給側から見ると中間投入として901億円の原材料を購入し、粗付加価値額として1,033億円の新たな価値を生み出し、1,935億円の商品を市内で生産したことを表わしている。
 需要側から見ると中間需要(他産業の原材料)として901億円を販売し、市内最終需要として家計消費や企業投資などに1,122億円を販売し、あわせて2,023億円を市内需要として販売したことを表わしている。また、市内の需要を全て市内で賄うことが出来ない分は、市外からの移入や国外からの輸入で補い原材料を購入している。市外の需要に対して市内から販売されたものは、移輸入を差し引いたものを「地域収支」というが、朝来市では88億円が移輸入超過となりこの分が赤字とされる。今後は、市外からのマネー獲得に努め、市内の経済循環、所得循環を高めながら、市内経済の浮揚を図る経済構造を模索し、新たに構築する必要があることが伺われる。

◆朝来市の「域際収支」
 朝来市の移輸出額は1,081億円で移輸入額は1,169億円と推計され、域際収支額は88億円の赤字となり、人口一人当たり換算では約26万円の赤字となる。14部門の産業別では黒字のさんぎゅは、製造業と電気・ガス・水道業・林業の3ぎゅしゅのみであり、特に製造業の139億円がとびぬけている。36部門の業種別においては、製造業の中でも半数近い業種で赤字であり、黒字を牽引しているのは金属製品となっている。

域際収支から見た産業類型
A 相互流通型産業 (移輸出率50%以上と移輸入率50%以上の組み合わせ)
消費財の殆ど移輸入に依存
B 移輸出特化型産業 (移輸出率50%以上と移輸入率50%未満の組み合わせ)
域外マネー獲得の期待大
C 市内自給型産業 (移輸出率50%未満と移輸入率50%未満の組み合わせ)
財・サービスの特性から移輸入、移輸出が起こりにくい産業
D 移輸入依存型産業

(移輸出率50%未満と移輸入率50%以上の組み合わせ)

 市内に需要はあるが生産額が小さいため移輸入に依存する産業

(3)経済成長戦略の企て方
@朝来市の特徴を整える(強み)
立地条件は交通の要衝、豊かな自然、特色ある企業立地と兆候な事業環境、高い雇用力、竹田城跡など豊富で魅力ある観光資源、付加価値の高い特産品
A朝来市の課題(弱み)
人口減少・少子高齢化、市内総生産と事業所数の減少、厳しい財政状況、人口減少等に寄り地域社会の維持が困難
BSWOI分析による戦略の方向性
(4)具体的な経済成長戦略(重点戦略・プロジェクト)

・テーマ設定、3の重点戦略、8のプロジェクを設定
 各プロジェクトは、短期(4年)、中期(7年)、長期(10年)の実施期間を設ける

◆重点戦略1  観光インパクトを活かした独自産業の創出
竹田城跡への入込客数は急増しているが、お金を使う場所や、宿泊・飲食店が少ないため経済波及効果が少ない。そこで、歴史遺産の保存と賑わいが創出できるよう整備を進め、市内に点在する観光資源の掘り起し集客を拡大するとともに、飲食店・宿泊業の活性化を図る。
プロジェクト1  竹田城跡・城下町賑わいアッププロジェクト
@竹田城跡及び城下町周辺の観光基盤整備
(アクセス道路、サイン表示、遊歩道整備、駐車場、トイレ等、竹田城周辺の一体的な整備)Aたけだ城下町交流館を拠点とした観光地づくりの推進
※プロジェクト2  観光資源ネットワーク化プロジェクト
@市内をくまなく周遊できる観光の推進(市内周遊バスの運行)
A
ICTを活用した観光情報の発信(WiFi環境の整備、スマホラリー)
B新たな観光資源の発掘と活用(観光資源の掘り起し、次代の観光資源の準備)
 (朝来市にゆかりある写真家や映像作家等の強力による写真展・映像イベント開催、観光大使によるPR、フイルムコミッションの立ち上げ)
Cインバウンドツーリズムの推進(2020年東京オリンピックによる外国人増加へ対応)

 FBHPTwitter、国際交流員によるPR、外国人向けガイドの育成)

プロジェクト3  観光関連産業活性化プロジェクト
@「maid  in 朝来」製品の普及促進(市内産に原材料で土産品、食料品等を開発)A飲食店・宿泊業の活性化(経済波及効果を高める)
(市内共通クーポン、市産素材を活用したメニュー開発、空き家・空き店舗活用による起業・開業支援
◆重点戦略2  エコノミックガーデニングの推進
 朝来市は、これまで企業誘致により成果を挙げてきたが、企業の撤退が続き雇用吸収力が弱まっている。そこで地域経済を「庭」、地元中小企業を「植物」に見立て、地元の土壌を活かし、地元企業を育成させることで地域経済を活性化させる。企業誘致による経済の活性化を頼るのではなく、意欲ある中小企業を支援し、優位性を活かした成長する環境を推進する。
※プロジェクト4  産業支援機能充実・強化プロジェクト
@地域産業創出支援センターの整備(企業を継続的に支援できる体制整備)
(経営相談や農商工連携へのコーディネーター(企業支援員)を配置、事業やサービスのマッチング支援等)
A市内企業間取引を促進するマッチング支援(市内原材料の仕入れ促進、市内企業への委託など)

(企業への状況把握調査、情報収集の促進、市内企業間におけるビジネス交流機会の充実)
B
ICTを活用した経営戦略支援の推進(市が保有するデータ情報の提供)
GISを活用したマーケテイング情報、各種統計情報等の分析・提供等の検討、補助金、企業支援施策情報の提供)
C中小企業間、商工会、市内高等学校、金融機関などと連携推進(エコノミックガーデンの推進)

 (事業推進母体の設置、ビジネス交流の支援)

※プロジェクト5  企業立地推進プロジェクト
@企業立地に向けた効果的なアプローチの実施(人口減少対策や経済活性のための企
 業立地)

(企業誘致イベント、企業訪問、トップセールス、災害の少ない地域特性を活かした企業誘致の
 推進)

A空き家・空き店舗等の活用(貸し手・借り手のマッチング支援による開業支援)

(空き家バンクの拡充、空き家・空き店舗等対策協議会の設置、開業費用補助)
※プロジェクト6  キャリア教育、人材確保・育成支援プロジェクト
@幼い頃からのキャリア教育の推進(幼い頃から地域内就労や定住志向を育む)
(市、商工会、市内企業、学校連携によるキャリア教育推進に向けた協議、中学生等の「トライやる・ウィーク」を活かした職業観の醸成、事業所ガイドブックの作成・配布)
A人材確保・育成支援(求人企業と求職者の橋渡し、企業に必要な人材育成を支援)

(企業合同就職面接会、市内企業就職情報サイト、市外進学者のネットワークづくりと継続的な市内就職に関する情報発信でUターン者確保、企業が実施する研修への補助、女性・高齢者の職業能力発揮促進に向けた啓発及び情報提供)
重点戦略3  農林産物のブランド化
 生産者の高齢化に伴い生産者も減少している中で、朝来市の特産農産物である「岩津ねぎ」の販路開拓・拡大を進め、同時6次産業化の推進、農産物の付加価値を高め、ブランド化を図る。更に森林資源を活用し、経済循環や雇用の場の創出のために「木質バイオマスエネルギー」として、未利用材の燃料化とともに環境保全など総合的に取り組む。
※プロジェクト7  農産物ブランド化・6次産業化推進プロジェクト
@岩津ねぎのブランド化の推進(知名度向上策、出荷額増加策、生産拡大策の模索)(ブランド化構想、都市部へのプロモーションの展開促進、機械化支援、担い手育成、多様な担い手による生産支援体制の整備)
A
6次産業化及び地産地消・地産他消の推進
6次産業化を目指す人材や経営体の発掘・事業者のマッチング支援、相談窓口の設置、岩津ねぎを原料とした商品開発と販売先の開拓など)
※プロジェクト8  木質バイオマス利用促進プロジェクト
@木質バイオマスの普及(未利用木材を燃料とする木質バイオマス発電事業の推進)(木質バイオマスの活用促進及び一般家庭に向けた普及啓発活動や補助制度の検討、木質バイオマス事業計画を県・民間事業者等と協働で検討・推進)
A資源の収集・供給体制の整備

(林地残材の収集・供給体制の整備)

(5)重点戦略を支える推進施策
推進施策は、3の重点戦略と8のプロジェクトの具体化のために、朝来市の課題に合わせ、継続的・効果的に実施する事項を整理して設定した。人口減少・少子高齢化の急激な進展により、地域間競争の激化、定住促進と朝来市のブランド化を図り、経済成長の基盤を確立する。
◆推進施策1  朝来市で働き、住み続けられるまちづくり
進学や就職で朝来市を離れても、戻ってきやすくするための取り組みを進める。
※1.定住化の促進
@定住促進に向けた総合的な取り組みの推進(人口流出・減少を抑制し定住促進を図る)
(定住者への家賃助成の増額、助成期間の延長、定住に関する情報発信、分譲地情報の発信、空き家バンクシステムの拡大、市外通勤者への通勤補助、就職祝い金の支給、市内企業への就職を支援する情報サイトの立ち上げ)
◆推進施策2  シティプロモーション戦略の推進
ブランド総合研究所による地域ブランド調査では、魅力度ランキング641位であることから、地域ブランドを創造し、ブランド力を活かした観光交流や定住、企業立地等を促進する。
※2.「朝来市」のイメージ確立プロジェクト
@イメージづくりの推進(竹田城跡を核とした「朝」のイメージづくり)
(朝来ブランドの構築、市民を巻き込んだイメージアップづくり)
A市内外へ発信するシティプロモーションの展開(定住先や進出先として選ばれるまち)

(広報戦略の推進、推進体制の整備)
6.朝来市経済成長戦略のまとめ
◆地域経済の構造的課題
 市は「住みやすいまち」「働けるまち」「訪れたいまち」をめざし、まちづくりに有効な施策を検討し実施する必要がある。しかし、市において産業振興、雇用創出、所得向上、消費拡大のための地域活性化策や地域振興策など施策を講じるものの、その効果に課題を抱える。
 経済の課題は、地域の消費が活発であっても、その効果は地域内に還元される保証はなく、公共事業等で関連産業への波及効果を期待するが、地域の経済に具体的な恩恵が見当たらない。製造出荷額は増加しても地域の所得が増加せず、生産需要が高まっても地域の所得や雇用の拡大は増えていかない。これは、ヒト・モノ・カネの流れに漏れの部分が存在しており、これを改善しない限り経済の循環は望めない。
◆地域構造改革の必要性
 地域経済の構造を変えずに地域の自立と持続可能性はなく、どれほど経済波及効果を分析しても対策が立てられない。地域内で課題が提起されても何を変えれば具体的に変化するのか分からないなど多くの課題を抱えている。しかし、経済構造の根底が理解されていない中では、施策を講じても単発的な施策に留まり地域の構造は変わらない。
 そこで、地域内での経済交流の仕方、地域外との経済交流の仕方を変えることにより、産業間取引、産業と消費者の関係を再度見つめ直すことで変化が期待できる。どのように変えることが地域にとって望まれる姿なのかを戦略的に整えることこそが「真のまちづくり」であり、地域資源をどのように使い、どのように変えていくことが出来るかを検討することが重要な経済対策である。
◆地域内で得られた所得の地域内循環
 市民がどこで消費しているかを把握することは重要であり、地域外量販店での消費、インターネットにおける消費、大型スーパー等での消費は、地域内への分配が給与所得のみに留まる。地域内の人々が消費する額の多くを地域内に循環させることで、地域所得の分配率を高めることが可能となる。
 市内に本社を有しない工場等の製造出荷額の一部は、本社等へ資金が流出している。また、子供を他都市の大学等へ就学させる親は、子供への仕送り等で所得の流出がある。(例:5万円×12ヶ月×1,500人=108,000万円の流出)
 金融機関等への貯蓄に廻った資金を地域内に再投資させ、域内経済の好循環を図ることが必要とされる。金融機関の預金の多くは、株式市場や国債に替るものが殆どであり、このことが域内所得の減少に繋がっていることを忘れてはならない。そこで金融機関における預貸率バランスによって、域内に再分配されているのかが明確となる
域内での最終需要と、地域外からの需要(移輸出)の関係
 需要と供給のバランスについて、域内での需要と供給の割合が大きい場合は、生産と消費が域内で好循環を生み出す経済となり、最終需要においても域内の仕入れ等が大きい場合は経済を好循環させる。さらに域外への移輸出(域内仕入れの場合)が大きい場合も同様な結論となる。域内で生産されるモノの原材料は域内確保をめざし、域外へ輸出することで外貨を獲得し経済波及効果は大きくなる。
 しかし、土地取引や地代、人件費、資本など資金が循環しても、経済波及効果は小さいとされることから、これらを小さくし、域内の中間需要や最終需要、域外への需要(移輸出)を高めることで、経済波及効果が大きくなる
◆域外市場産業と域内市場産業に分類
域外市場産業(基盤産業)=
 域外を主たる販売市場とした産業で、移出型産業と言われ一般に農林漁業、鉱業、製造業、宿泊業、運輸業が該当となる。地域所得の源泉となる産業であることから、基盤産業と定義されている。

=域内市場産業(非基盤産業)=

域内を主たる販売市場としている産業で、建設業、小売業、個人サービス、公共的サービス、公務、金融保険業、不動産業などが該当する。域外市場産業(基盤産業)によって外貨を獲得し、そこから派生需要で生まれる産業であることから非基盤産業とされる。
○施策の効果
経済成長戦略においては、獲得した外貨が地域内の産業間で循環するような産業連関構造を構築し、高い経済循環の実現には必要かつ効果的な捉え方と認識する。また、地域内にしかないモノなど、地域資源を活用して経済好循環を整えるために効果的な手法である。
 市の強み・弱みなど内部環境と外部環境を整理し、循環型社会への対応、安全・安心の確保、価値観・文化の多様化などの外部環境の変化には、強みを活かして「攻め」、弱みを改善し「守る」ことが必要である。また、人口減少、少子高齢化、企業の海外移転、為替変動、新興国の台頭による国際競争力の低下、地球環境の悪化など外部環境の脅威に対しては、強みを活かして「克服」すること、弱みに対して「回避」すること的確に分析する。そのことを具体化することによって、今後、求められる方向性が見出される。

 朝来市の成長戦略の方向性には、域外マネーの獲得、地域資源の最大活用、雇用の拡大、朝来市のブランド化の4本柱を位置付けた。これら実現に向けた新たな重点プロジェクトのポイントを掲げたことは、域内の状況が詳細に把握され対策を講じるものである。
 朝来市も取り掛かったばかりであり、具体的成果は聞いていないが経済の好循環を実現するには必要な施策である。
施策の課題

 経済センサスや国勢調査など統計資料を基に作成する産業連関表は、公表されるまでに相当な期間が必要なことから、タイムリーなデータ集積に課題が残る。また、各企業への細かなアンケート調査を必要とすることから、企業への協力体制が不可欠である。さらにこれらの産業連関表や経済成長戦略を策定するまでには、細かな裏付けと綿密なデータ分析が求められるため、専属部署の設置が不可欠である。

 しかし、これらの施策は、地域経済の連関構造において通貨の循環と漏出の度合いが把握出来なければ、対策を講じることは不可能であることから、戦略的に経済の好循環を促すためには、必ず必要な施策である。

7.考  察 経済成長戦略を高山市にどう生かすか。
【いかに現状を把握して戦略的に対応するか】
高山市の経済戦略を策定する場合は、産業を分類することによって問題点を整理し、どこで稼ぎ出す仕組みを検討し、その稼ぎ出した資金を域内に分配させるシステム構築こそが極めて重要となる。基盤産業が生み出す資金を非基盤産業へ循環させるシステムづくりが大切となる。
◆地域経済構造分析の手順
・地域経済の設定  
対象圏域(高山市・飛騨市・下呂市・白川村)における、従業者や定住者など移動率と就業率を国勢調査の統計により把握。
・地域経済の状況把握
 人口の長期動向、対象圏域における人口の長期的変動、人口の自然増減(出生・死亡)、人口の社会増減(転入・転出)、対象圏域や都市周辺地域への人口移動、産業別の年齢構成、近隣都市との完全失業率の比較、近隣都市との個人所得の比較、個人所得の推移、近隣都市との地方税収の比較などについて、統計資料を活用しながら詳細を把握する
・地域の経済構造の識別
 域外市場産業(基盤産業)における業種別の移輸出・移輸入額を調査し、域際収支(移輸出額−移輸入額=域際収支)を分類し課題を整理。
国勢調査の統計により、業種ごとに雇用者を把握。
製造業における、業種ごとの雇用者を把握。
所得(付加価値額)創出産業について、業種ごとの付加価値額(所得)を調査。
これらを把握することで、どの分野が経済を牽引し雇用吸収率が高いのかを把握し、経済成長の牽引業種を探ることが出来る。
・地域経済の連関構造(循環と漏出)
 域外市場産業、域内市場産業ともに、業種ごとに市内外総需要の額、中間投入額(域内・域外仕入れを把握し移輸入率の割り出し)、雇用者所得、市外需要の額を算定し、どの分野が移輸入に頼り、市外需要(外貨獲得割合)を把握する。
 人口一人あたりの所得と年間小売販売額の分布を調査し、周辺都市と比較することで消費の漏出を把握する。

 信用金庫、信用組合の預金が地域経済に再循環しているかを検証するため、金融機関別に預貸比率を把握し、経済の好循環のため金融機関と連携を探る。

 これら列挙した方法によって産業連関表が作成できる。高山市の経済戦略においても、これらを活用した上で、経済再生に臨む必要がある。

 高山市は観光産業によって導き出される経済波及効果が大きいが、現実に観光消費額を著しく向上させることは極めて難しい状態でもある。よって、現行の観光消費額において、域際収支を高めることで経済の好循環を図る必要があると考える。具体的には観光消費額の伸び代をどこに求めるのかを示す作業でもある。もっと言えば日帰り観光に求めるのか、宿泊観光に求めるのか、又外国人観光客の増加で対応するのか国内客への対応をどうするのか、それらについても分析し言及すべきなのではないか。

【課題解決へ向けて】

1)常に問題意識を持つことの重要性
・通常、経済波及効果の額を把握し市内経済の全体像を掌握しているが、実際にはもっと増加させる可能性を探ることが重要であり、地域内外の連関構造を変えることで可能性があるとすれば、取り組んで行かなければならない。
・波及効果によって生み出される資金等は、どこに効果を表わしているのか。また、この効果が一部に偏ってはならず、地域経済全体を見定める視点が必要である。
・現状調査等からSWOT分析を実施し「強み」と「弱み」を探り、強みを更に強くし、弱みを克服することが言われるが、その発想のみでは課題の解消には繋がらない。弱い部分と強い部分を接続させて地域を変える視点が重要となる。
地域の最終需要は変わらないとしても、中間投入(移輸入)の中身を変えることにより、付加価値額(雇用者所得、営業余剰)がどう変化するかを試算する必要はある。これらを積み重ねることで、持続可能な地域経済システムを見出すことができるのではないか。
(2)高山市に必要なことは産業連関構造の試算
 民間消費や公共投資、移輸出など最終需要が変化した時の波及効果を調べ、地域の経済を浮揚させるために、産業連関構造を試算することで移輸入の形を変え、付加価値額を変化させる。
 例えば、企業の外注作業などの委託を見た場合、委託先が域内か域外では中間投入における移輸入の額が異なることで最終需要に変化はなくても、付加価値額は大きく異なってくる。農産物加工や特産品(土産物など)の製造において、域外で製造しているものはないか、域内で製造する場合に波及効果はどう変化するか、雇用創出効果はあるかなど、業種毎に試算し付加価値額を増加させる方法を探る。また、個人消費における移輸入の額を調査し、域外流出を防ぐことによる効果を試算する。
(3)資金(マネー)獲得のための試算
・域外マネー獲得の試算
新たな企業誘致を進める中で、現状では成果が上がらない状況であるが、従来の企業立地の視点に留まらず経済波及効果を試算する。

地域内の原料を使用することにより見出される企業利益と、地域経済における付加価値額の両方がマッチングできる産業を地域主導で見出し企業立地を誘導する。
・域内マネー獲得の試算
市内取引額が増大することで経済波及をもたらす効果が大きいことから、域内による中間投入額や域内消費を拡大させ経済波及効果を試算する。このことは同時に、域外に流出する額を減少させる試算でもある。また、観光は代表的な域外市場産業(移出型産業)であることから、観光業の振興による最終需要や付加価値額が増大することは、これまでの調査でも明らかとなっている。

 市内からの供給量(生産品)の増加によって生み出される中間投入額、最終需要、付加価値額を試算することで、地産地消、
6次産業化、異業種の農業参入、特産品開発なども期待できる。
 個人消費は、地域外量販店・インターネット通販・大型スーパー等(域外)での消費増加は移輸入額の増加により中間投入額が増えることとなり、付加価値額が減少することから、域外への消費流出を極力避ける必要がある。

 他都市において大手企業の撤退が相次ぐ中、市外への移管は域内経済にとって雇用者及び所得を減少させることから、市内企業における現時点での経済波及効果を試算した上で、市内企業の重要度を見つめ直す必要がある。
産業構造分析のそもそも論:産業構造分析は産業連関表がなければできないのか
1.市町村レベルでの産業連関表の作成は可能か
・産業連関表については国・県が連携して工業統計、経済センサスなどを組み合わせ、これまでも5年ごとにその推計が発表されている。
・県の場合「推計方針の策定」、「物資流通調査の実施」、「基礎資料の収集」、「推計作業」、「結果のとりまとめ」などで概ね5年を要している。
・行列係数の計算など統計に関する専門知識・ノウハウも必要となる。
・新たに市レベルでの調査も必要となり、専門の職員配置も必要になる。
・市の直営事業として作成しているのは横浜市、大阪市など一部の大都市のみである。
・美作市、豊岡市、朝来市、倉敷市などで作成した事例はあるが、いずれも大学研究者等の専門家に委託された模様。
・他市の公表結果のみを見て、事例をなぞって容易に推計できるようなものではない。
2.経済活動を把握する上で何が必要となるのか
・市独自の産業連関表があるに越したことはない。
・しかし作成するとなると、その労力・時間・職員の確保・市外との取引状況等の調査が必要。委託するとなるとその費用負担等の問題がある。
・もともと産業連関表自体一定の基礎データに基づく推計であり、県レベルよりも小さい地域レベルでは基礎データとして統計が不足している。
・どうしても推計とならざるを得ないものなので、コストに見合うだけの精度が得られるのか、「労力・コスト」と「作成した結果の活用・メリット」を考える必要がある。
・その意味では県の産業連関表を代用し、市での波及効果を推計する方法もある。
・地域の産業構造を知る上では経済センサスから市内の産業別就業構造等を分析、工業統計から製造業の動向を把握分析するなど市の産業構造を把握し関連する地域の声を拾い上げることで産業施策を議論できるのではないか。
・産業連関に基づく推計だけでは政策の議論としては不適切であり、生のデータと地域の声をよく組み合わせることが必要。
3.それでも独自の産業連関表は必要ではないか。
・先に述べたように費用対効果の面ですぐに職員が推計を行うことはきわめて困難であるが、委託という前提であれば可能といえる。
・その際委託先の結果を鵜呑みにすることなく、職員自身が委託結果を吟味できる専門知識やノウハウを得る事が必要。
市独自の産業連関表の作成には以上のような指摘がある。
今回の朝来市の調査結果から見えてくるもの
・戦略を伴わない場当たり的な経済施策や朝来市の経済・産業の現状を把握できていない状況を脱するというところから始まっており、その為の外部識者の活用で様々な改革に取り組む必要性を基盤としており、人口3万2千人規模の自治体が策定した「経済成長戦略」というところに意味がある。
・その為まず現状を把握・分析するための経済白書の策定が先行し、連動する形での成長戦略の策定であった。その為施策の方向性が的確に指摘されている。
・産業連関表作成については、約210万円という委託料で策定できたとのこと。
・そのほかには、幅広く白書の策定や計画書作成までの委託料もかかったものと判断している。
・高山市は県下では観光の波及効果で市の経済が回っている観光都市としての特性があり、県の産業連関構造ではダウンサイジングして活用できないところがる。
・特に高山市でも観光の波及効果を活用して産業全体の構造を改革していく考えがなければ、人口減少化社会での産業経済政策の策定は無理であり、こうした取り組みを参考にする必要性を強く感じている。
・又、国の産業育成策としても言及されている。地域経済循環による地域振興の考えやエコノミックガーデニングの必要性なども網羅した上での経済成長戦略の策定であり、朝来市総合計画における産業経済分野の戦略としての位置づけである。
・朝来市重点施策の中に盛り込まれた「地域産業創出支援センター」の考え方は、国の言う「地域ラウンドテーブル」の立ち上げによる、産(産業界)・官(行政)・学(大学棟の教育機関)・金(地域金融機関)の連携による地域振興そのものの考えであり、地域産業の発展は中小企業発展のための施策の展開であるという表明でもある。
・資料として朝来市産業連関表−36部門取引基本表−を付しておく。
参考)
 今回、朝来市の経済成長戦略策定のアドバイザーを努められた岡山大学大学院の中村教授の研究活動事例を調査する中で、朝来市の取り組みのほか豊岡市・倉敷市・美作市などの事例も読ませていただいた。 

 人口規模などから言えば豊岡市(人口約8万9千人)などが類似都市として視察調査対象となるところであるが、今回あへて人口3万2千人の朝来市を選択した。これは今後の人口減少化社会への対応には「経済構造改革へのシミュレーション」や「経済効果シミュレーション」が必須であり、そうした意欲がにじみ出る戦略策定であると感じたからである。今後の地方自治体の立場を意識した危機感がなせる戦略策定ではなかったかと感じている。
 その意味では平成25年3月に美作市が策定された「美作市産業連関表による解析と政策提案は産業連関表の位置づけがわかりやすい政策提案書でないかと考える。
 特に政策シミュレーション分析が多く取り入れられ、「湯郷べるが地域に与えている影響」、「道の駅の出店効果」、「道路整備、老人ホームの整備と運営」、「アウトレットモールの立地」、「美作の国13000年祭の効果」等身近にある課題をシミュレーションしている点などは参考になった。
 こちらには「美作市産業連関表作成手順」及び「美作市経済構造に関するアンケート」なども示されており、参考になった。
 尚、美作市の独自調査によるアンケートの集計結果は30%弱という回収率であったようだが、朝来市では60%まで高める努力をしたとのことであった。それは、今後の朝来市の将来を左右する戦略策定に当たっているという使命感から、各企業の皆さんに理解を求め足でかせいだ集計結果であると胸を張って説明されたことを記しておきたい。

平成26年度文教産業委員会視察報告書「朝来市の経済成長戦略」:追加報告

文教団行委員会:岩垣和彦、中田清介

先に提出した「朝来市の経済成長戦略」視察報告について、ネットを通じて報告書を読まれた岡山大学大学院中村良平教授からご指摘と助言が届いたため、その概要を記すとともに視察報告書内容を追加します。
岡山大学大学院経済学部「中村良平」教授から、朝来市視察報告を読まれ、6項目についての指摘事項及びご助言をいただきました。(2014.10.30:高山市議会事務局へのメールにて)

1点目は、報告書中(参考)部分の中で、「なお、美作市の独自調査による集計結果は30%弱という回収率であったが、朝来市は60%まで高める努力をしたとのことであった」と記述した部分について、中村教授からは「アンケート回収率が30%であり、追加調査を重ねる中で出荷額の捕捉率は7割近くであった」とご指摘を受けました。朝来市の視察担当者の言葉をそのまま掲載したためのご指摘でした。
やはり着実なデータの積み重ねがあっての成果であったのだと、関係者の皆さんの努力に敬意を表した次第です。
2点目は、中村教授が関わられた調査研究体制と最新の事例について説明された上で、自治体は産業連関表を作るだけではなく、それを使いこなしていく能力を身に着け、継続してバージョンアップしていく必要性についてご指摘いただきました。
3点目は、連関表作成については、ある程度の予算と時間がかかるものと述べられ、産業連関表の作成はいわば知識と熟練工の仕事であり、入札などで低価格で委託すると後で後悔することになるとのご助言です。
4点目は、市町村と県の産業連関構造はかなり異なるので、市町村独自でこそ連関表を作る意義があるとのご助言です。
5点目は、どうしても予算と時間に制約があれば、域際収支を調査しあとは推計で取引表を作成することもできるが、かなりの統計分析レベルが必要となる。連関表については素人が作成するととんでもない誤りを起こすことがよくあり、作成したとしても専門家のチェックが必要となるとのご指摘でした。
以上のようなご助言とご指摘でした。大変参考になりました。
 視察後の報告書でも、産業連関表の作成で地域の経済構造を分析し、地域経済循環分析に基づいた戦略的な産業振興の必要性を述べましたが、改めて多くの地方都市の連関表分析に関わられている中村教授の活動事例を見るにつけ、その必要性を痛感しているところです。

平成18年度に、高山市議会総務委員会は岡山県赤磐市へ視察を行い、
        「民間活力を利用した地域振興:叶ヤ坂天然ライスの事例」を調査しています。
これは平成の合併前の岡山県赤坂町の地域経済構造分析に基づく取り組みを調査したものです。この事例の中でも、域内調達・域外販売・域内雇用などの地域経済循環構造が取り上げられており、そうしたことを把握した上での地域活性化事例として幅広く紹介された取り組みでした。
当時総務委員会所属であった中田は、02.7.22付(平成14年)の日経新聞「経済教室」で紹介された、中村教授の「地域経済循環の把握を・振興策検討に必要」という記事を読んであり、平成16年7月に経済産業省より発表された「地域経済分析の枠組み:高山都市圏分」で示された、「地域における産業振興の重点および現状・評価」の仮説を読み、視察調査地として推薦し選定したものです。

視察報告書「民間活力を利用した地域振興:叶ヤ坂天然ライスの事例」では
1.総合商社はまちおこしのプロセスにどう関わったか。
2.事業設立から現在までの3セク会社としての動向。
3.地域経済循環分析の考え方。
4.叶ヤ坂天然ライス:事業継続への課題
5.高山市における地域振興:地域経済循環の考えを取り入れることは可能か。
以上の5部構成で報告していますが、参考として添付しておきます。

報告はこちらからご覧いただけます。
http://www3.ocn.ne.jp/~seisuke/h18soumu/akasaka.htm